2017年3月21日火曜日

トランプ大統領登場の背景(2)「アメリカ分裂―数字から読みとく大統領選挙」を読む(2)

前回のブログに続いて、井田正道「アメリカ分裂―数字から読みとく大統領選挙」の最終章である第5章を検討しよう。
第5章は、今回の選挙とトランプ大統領の登場を検討している。
予備選における「性、年齢、教育程度別 トランプ投票者割合表5-3)」と「イデオロギー・最重要イッシュー別トランプ投票者割合表5.5)」の平均値と中央値のみを取り出したのが、左の表である。
性、年齢、教育程度別では、トランプ大統領は、男性、40代後半以降、非大卒に支持が大きいことがわかる。
イデオロギーでは弱い保守に支持があることに注意しておきたい。強い保守であるキリスト教右派からの支持は弱かった。そして支持された最重要イッシューは移民が他を大きく引き離している。

予備選における「年間所得階層別トランプ投票者割合表5.4)」も紹介しておこう。各地で行った投票結果の一覧から、「5万ドル未満」から「10万ドル以上」の所得の投票者の割合を引き、その割合が+あるいはー10%になっている州のみ、表にまとめた。そうすると、上位4州は南SAで、中西部の3州もそれに続いている。マイナスはニューヨークで、他州とは異なって高所得者が支持している。

以上が、トランプ大統領を支えている基盤であると言えるだろう。
著者は、「2016年大統領選は,アメリカの分断状況を再確認させるどころか,亀裂がより深まっていることを印象づけた。もはやアメリカの民主党支持者と共和党支持者との間には,抜き差しならぬ対立状態にあるように見える。そして措抗する支持状況が亀裂をさらに深める作用をしている。」(p.183)と適切にまとめている。

ところで、トランプ大統領の最重要イッシューは移民であったが、今アメリカは大量の移民受け入れから移民制限へ大きく舵を切ろうとしている。アメリカはしばしば移民の国とされているが、同時に移民排斥の国であったことも事実である。日本からの移民が過酷な状況に置かれた時期があったことを忘れてはならない。移民の受け入れと排斥は、経済のグローバル化と保護主義が交互に登場するのと酷似あるいは対応している。
また、トランプ大統領が経営者として巨額の資産家であり、政権には多数の経営者や資産家が参加しているとは言え、その支持基盤に比較的所得階層が低い階層や地域が多いことにも注意しておくべきだろう。それは、民主党内でサンダース旋風が巻き起こったこととも対応している。

最後に、「アメリカ分裂―数字から読みとく大統領選挙」は、多くのデータを用いて、今回の大統領選挙の背景と結果を明らかにした重要な文献であり、広く読まれることを、改めて期待したい。しかし、この本での検討は、アメリカ政治の本格的な検討の第一歩である。
トランプ大統領の登場を予見したとする一部のジャーナリストや研究者の調査や報告で検討に値するものはほとんど無い。大統領選挙の本選、同時に行われた議会選挙などを含めた、井田正道氏の研究をさらに詳しくした調査・研究が現れることを期待したい。
今年はヨーロッパで次々と重要な選挙イベントが控えている。それぞれの国でもトランプ的な主張が強くなっているが、その特徴とアメリカとの比較を詳しく調査する報告や研究が現れることもあわせて待ちたい。

このページから先に読まれた方は、ぜひ第5章までを検討した、ひとつ前のブログをあわせてご参照ください。


トランプ大統領登場の背景(1)「アメリカ分裂―数字から読みとく大統領選挙」を読む(1)

トランプ大統領登場の背景を探ることは現在のとても重要な課題である。このテーマに迫った本が出版された。井田正道「アメリカ分裂―数字から読みとく大統領選挙」(明治大学出版会、2017年)である。
まず、目次は以下の通りである。
序章 アメリカの政治制度
第1章 ”合州国”を分解する
第2章 揺らぐ?共和党の牙城ー南部政治の展開ー
第3章 存在感を増すマイノリティ集団ーヒスパニックの動向ー
第4章 苦しみながらもオバマ再選ー2012年選挙ー
第5章 アメリカ分裂を印象づけた2016年選挙

トランプ大統領の登場は、マスコミや調査機関、多くの研究者の予想を覆すものだった。しかし、マスコミや調査機関はその判断のどこに誤りがあったのか未だに十分な検討は行っていないように思える。このような事態を前に、トランプ大統領の登場を、出来るだけ具体的な数字で明らかにしていこうというのが、本書のねらいである。

このブログでは、「アメリカ分裂」(以下では同書とする)の主要な図表をわかりやすく作りかえ、そのねらいを紹介したい。なお、すべての表はクリックして拡大してご覧ください。

第1章表1.2は、全州の社会的背景を一覧にしているが、そのうち所得中位置とジニ係数の上位5州と下位5州をまとめた。(データは2010年)なお、左から2番目の欄は、国勢調査に基づく州別区分を示している。(州区分ついては、Census Regions and Divisions of the United Statesを参照)
所得中位置の額が少ない州には南部の各州が並び、所得格差の大きさを示すジニ係数の大きな州には、北東部3州、南部2州が入っている。


経済的な地位が政治的な意思に強く結びついているとは言えないが、このデータは基礎的なデータとして重要である。

同じ第1章表1.3, 1.4の各州の政治的態度についてのデータを、表1.3では保守ーリベラル、表1.4では共和ー民主の数値の上位5州と下位5州を一覧にした。(データは2008年)
イデオロギー態度では、保守ーリベラルの数値が高いのは南部諸州、低いのは北東部各州が多い。政党帰属意識では、共和ー民主の数値が高いのには、西部と中西部が占め、低いのは北東部各州がやはり多い。

これらのデータをもとに、同書では各州の特徴付けがp.29-40で詳しく行われている。

第2章は南部の分析に充てられている。同書表2.1が示しているように、南部は最も人口変動率が高く、2010年には全人口の37.1%を占めている。
表2.9によれば、共和党が大きく増加しているのは、南部West South Central(WSC, 計4州)と南部East South Central(ESC, 計4州)のうちの掲載された州である。南部South Atlantic(SA、計9州)では、共和ー民主の数値が、20年間にあまり変わっていない。

章題は「揺らぐ?共和党の牙城」となっているが、まずは右の特徴をみておく必要がある。また、p.64のこの表の説明は今ひとつ不明確である。

次に第3章では、近年急速に増大しているヒスパニックが検討されている。
表3.3で注目すべきなのは、ヒスパニックの投票行動の標準偏差が、民主党と共和党への投票に限らず高いことである。それは、ますます増大する彼らがどのように投票するかが、アメリカの今後に大きな影響を与えることが予想される。

以上の検討は2012年までのデータに基づいており、2016年の大統領選挙については第5章で扱われる。第5章と、私の問題整理は、次のブログで検討したい。あわせて参照いただければ幸いです。

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