2016年2月19日金曜日

葛飾応為初の作品集『北斎娘・応為栄女集』、Katsusika Oh-i

葛飾北斎の娘応為の初の作品集『北斎娘・応為栄女集』が、久保田一洋氏編著で刊行された。目次は以下の通りである。
一 応為栄女、図版1-11
二 北斎娘辰女、図版12-15
三 北斎と応為、図版16-30
四 特別掲載(富士越龍図)、図版31
五 資料、図版32-33
六 論考・年譜・参考文献
なお、表紙(左)は応為の代表作である、「三曲合奏図」、裏表紙(右)は「関羽割臂図」である。

まず、応為の最も特徴のある作品のひとつでよく知られた「吉原格子先之図」である。明るく照らされた遊郭の中には、豪華な衣装を身につけた花魁が見える。右端の花魁のみくっきりと姿が見え、その他の花魁の姿や顔は格子が邪魔している。中を覗きこんでいる人々が持っている提灯のほのかな明かりだけが、遊郭の周囲を照らし出している。その人々の表情はわからない。明かりと暗闇のコントラストが、とても鮮やかである。
他の浮世絵作品にはあまり見られない独創的な構図と色使いである。

同じような構想で描かれたもうひとつの代表作が、「夜桜美人図」である。灯籠が明るく灯す火が、絵筆を走らす女性の上半身と足下を、満天の星が輝く夜の中で浮かび上がらせる。灯籠の周辺と足下には、桜が美しく咲いている。また、この画像からはわかりにくいが夜空の星が、その明るさによって異なった色で描き分けられている。
以上の2つの作品で、ともに描かれているのは、夜と闇、その中のわずかな明かりによって、人々の表情、活動や生活が表れてくる。応為がどうしてこのようなテーマと描き方をするようになったのか、まだ解明すべき点が多いが大変興味深い。最近になって、これらの作品がしばしば取り上げられるようになった。

以上の応為の作品とわかっているものとは別に、北斎と応為の共作とみなされる作品が第三章で紹介されている。
まず「端午の節句図」(右)、「商家図」(左)などのライデン国立民族学博物館所蔵の作品群である。
久保田一洋氏は「出来上がった作品の作者について、現在定まった見解を見いだすのは難しい。シーボルトは、北斎によると記録しているが、平成十九年「北斎展」(江戸東京博物館他)では「北斎工房」による作品に帰され、北斎真筆で疑いないとした旧来の視点は薄らいでいる。・・・ここでは十五点のうち三点を、北斎工房のなかでも応為が関与した可能性ある作品として掲げた。」(82)その詳しい根拠については、本書をご覧いただきたい。

最後に特別掲載の富士越龍図」である。北斎の絶筆と言われる「富士越龍図」は図版30として別に掲載されている。久保田氏は、図版30について、「本図はその落款に、描かれた日と北斎の生年が記されている。・・・しかし九十歳の北斎が、正月早々ここまで描いたというよりも、応為が描き上げたようにも思われる。」(99)と推論する。この推論を踏まえて、特別掲載の「富士越龍図」についても同様の推測を行っている。本書では詳しい検討が行われているので、参照していただきたい。

こうして、本書はこれまでまとまった紹介の無かった葛飾応為の作品と確認できるものだけではなく、彼女と北斎の共作とみなされるものまで幅広く収録した貴重な文献となっている。個々の作品についても詳しい検証が行われている。葛飾応為の作品は、この本を通じて、浮世絵の新しい世界を生み出したものとしていっそう注目されるだろう。

最近、喜多川歌麿の「深川の雪」が再発見され、「品川の月」「吉原の花」とともに、歌麿のもうひとつの世界が大いに注目されている。次々と発見されたり、公開されたりする作品と、再評価の新たな視点の登場が、浮世絵の世界をますます豊かにしている。今後のいっそうの展開がとても楽しみである。

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