2017年8月20日日曜日

「真の日本の友」グルー駐日大使の『滞日十年』(1)

第2次世界大戦についての様々な資料の公刊を通じて、その評価の見直しの機運も徐々に高まっているが、その過程で日米開戦回避の動きに重要な役割を果たしたグルー駐日大使(Joseph Clark Grew, 1880-1965、駐日大使は1932-1941)の活動に注目が再び集まってきた。本ブログでは、『滞日十年』(Ten Years In Japan)を中心とするグルーの文献を、2回に分けて紹介したい。

まず、『滞日十年』の目次は次の通りである。
上巻
第一章 日本を覆う暗殺者の影(一九三二年五月十四日一九三三年二月十五日)、第二章 嵐に先立つ平穏の三年間(一九三三年二月二十日ー一九三六年二月十一日)、第三章 早産的革命から公然たる戦争へ(一九三六年二月二十六日ー一九三七年四月十八日)、第四章 「支那事変」(一九三七年七月八日ー一九三九年五月十五日)

下巻
第五章 一つの世界と二つの戦争(一九三九年十月十日ー一九四一年十二月七日)、第六章 一つの世界と一つの戦争(一九四一年十二月八日ー一九四二年五月三十一日)

目次からわかるように、記事は1942年で終わっており、また記述は様々な配慮の元で書かれているので、次の文献で補うことも必要になる。"Turbulent Era : A Diplomatic Record of Forty Years, 1904-1945"(以下ではTEと略す、次のブログに表紙を掲載)

ところで、刊行されていない日記などについては、Joseph Clark Grew papersというタイトルで、Houghton Library, Harvard Libraryに所蔵されているようである。(Grew, Joseph C. (Joseph Clark), 1880-1965. Joseph Clark Grew papers: Guide., Houghton Library, Harvard Library, Harvard University)
現在の私の能力と立場では、これらの資料をとても参照できないので、廣部泉氏の『グルーー真の日本の友ー』を、そのまま参照させていただいた。以下では、年代順に、グルーの重要な発言や記述を紹介していきたい。(廣部泉氏の著作は、グルーの考えや行動を理解するための最新の貴重な文献である)

ルーズベルト大統領の隔離(quarantine, 検疫(『滞日十年』上の訳, p.358)演説
各国間の緊張が高まり、国内ではニューディール政策に限界が見えてきた1937年10月5日、ルーズベルトは隔離演説と呼ばれる有名な演説を行った。「身体の疫病の流行が拡がり出したら、共同体は疾病の拡がりから共同体の健康を守るため、患者を隔離することを認めている。」(TE,1161)この演説を一つの重要な契機として、ルーズベルトは日本についてはより強硬に対応するようになる。
これに対し、グルーは「我々の基本的かつ根本的考えは、極東の混乱に巻き込まれるのを避けることである。そして、我々は直接巻き込まれるかもしれない道を選んでしまった」と述べている。(日記、廣部p.105)
グルーはこのように嘆いたが、グルーこそがアメリカの伝統的な外交政策の立場を表明していた。

日本、枢軸国をさけて航行する、
日米間の緊張が高まり、米ソ間の接近がいっそう深まりつつある1939年5月15日に、グルーは、日米間について次の様な重要な指摘を行い、『滞日十年』第四章を締めくくっている。
「ゆえに日本が将来を見透して、自分の友情をどこにおいたら一番利益であるかを決める
のが至当である。・・・。経済、財政、商業、感情のどの点から見ても合衆国は、もし日本が米国と同様につき合うならば、世界中のどの国よりも日本のよい友人であり得るのだ。どの点から見ても日米戦争は、まさに愚の骨頂である」(『滞日十年』上、454)
私も以前に発表した研究『日米コーポレート・ガバナンスの歴史的展開』で主張したように、日米は経済と企業の構造において共通点が多く、満洲などでも共同開発が模索されていた。グルーはその点を正確にとらえていたのである。

ソ連の脅威
同じ年の12月31日に、グルーは先の指摘と一対の、戦後世界を見通す重要な政治的な予言を残している。これらの認識と見通しはその後のグルーの活動を支えている。
「我々がいま入らんとしている十年間について何か政治的予言をするなら、その十年が終わる前に我々は英仏独日が共同してソヴィエトと戦っているのをみるだろうというものになるだろう」(日記、廣部p.128)

次回のブログでは、第2次大戦直前と、終戦直前のグルーの最も注目すべき活動を紹介する。

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