2017年4月16日日曜日

堀内一史『アメリカと宗教』を読む

キーワード(Key Words): 宗教右派(the religious right)、福音派(evangelicals)、モラル・マジョリティ(the Moral Majority)、バイブルベルト(Bible Belt)、サンベルト(the Sunbelt)

先に紹介した飯山雅史『アメリカの宗教右派』とあわせて、堀内一史『アメリカと宗教 保守化と政治化のゆくえ』(中公新書、2010年)についても紹介したい。
目次は以下の通りである。
序 アメリカ宗教概観、I 近代主義と原理主義の闘い、
II 宗教保守化の背景、III 主流派とリベラリズムの隆盛、
IV 原理主義・福音派の分裂、V 政治的保守の巻き返し、
VI 宗教右派の誕生、VII 大統領レーガンと宗教右派の隆盛、
VIII 共和党プッシュ政権と宗教右派の結集、
IX オバマ政権と宗教左派。

南部バプテスト連合信徒の分布図(p.62)
第II章では、「宗教保守化の背景 南部福音派のカリフォルニア流入」が主題となる。
著者は、南部福音派を次のように定義し、そのうち南部バプテスト連合信徒の分布図を左の図で紹介している。

「南部福音派とは何か」では、「南部バプテスト連合は、現在では人口比で六・七%を占め一六二〇万人を超える信徒数を有するプロテスタントでは最大規模の教派である。聖書の無謬性を中心とする原理主義的な信仰を特徴とする。この南部バプテスト連合のほかに、チャーチ・オブ・ゴッドなどの南部を中心に分布している諸教派に属する福音派は、一般に「南部福音派」と呼ばれる。」(p.63-4)

著者は、南部福音派の人口移動が、その影響力の拡大をもたらしていることを特に重視している。移動した地域は、サンベルトと呼ばれるバージニア州南部とカリフォルニア州中部を結ぶ線以南に位置する合衆国南部,西南部の地域を指し、文字どおり陽光のまぶしい,一年中温暖な地域で、新たな産業が発展している地域である。この人口移動によって、サンベルトのバイブルベルト化が生じているという。

「宗教右派」の誕生とモラル・マジョリティの結成について、著者は次のように説明する。
ニューライト(政治家グループ)の活動家やファルウェル(テレビ伝道師)らは協力し、「保守的な福音派を動員し彼らの価値観や世界観を政治に積極的に反映させようとする利益集団を設立して展開する宗教・政治運動「宗教右派」(=「キリスト教右派」)の構想が誕生する。」(p.175)
「ファルウェルはモラル・マジョリティの目的を、生命を尊び、家族の価値を重視し、道徳を尊重し、アメリカを最優先することとした。」(p.177)

このようにして、白人福音派が次第に政治に影響力を拡大していく。右の図(p.244)は白人福音派が共和党を支持し、共和党を通じて影響力を拡大していく様子を示している。

ところで、この著作においても今後の見通しでは、最終章の「宗教右派の衰退、若年層の敬遠、福音派の変容ー新世代の登場、中間主義的福音派、宗教左派」などの見出しに示されているように、オバマ政権誕生とともに流れが変わりつつあるという評価になっている。
しかし、その後オバマ政権の政策と対立するトランプ大統領が登場し、共和党の力が議会で増大して、2010年刊行の本書が予想したのとは異なった結果がもたらされている。

本書と『アメリカの宗教右派』の予測が短期的にみれば適切では無かったとは言え、『アメリカと宗教』と『アメリカの宗教右派』の両著を通じて、日本では十分に知られていない宗教右派そのものとその政治への影響を理解することは、ますます重要になることは間違いない。両著をともに読まれることをお薦めしたい。

また、トランプ大統領の支持基盤が宗教右派や福音派とどのような関係にあったのかについての、具体的で詳細な調査と研究が今後登場することを期待したい。

ブログのTOPブログの目次新保博彦のホームページ

飯山雅史『アメリカの宗教右派』を読む

キーワード(Key Words): 宗教右派(the religious right)、福音派(evangelicals)、モラル・マジョリティ(the Moral Majority)、ポピュリズム(populism)

トランプ大統領の登場と、アメリカ政治における「保守化」の進行は、アメリカの宗教の動向までさかのぼらなければ理解できないように思われる。その課題を理解する重要な著作2つを、2回のブログに分けて紹介したい。

まず、飯山雅史『アメリカの宗教右派』(中公新書ラクレ、2008年)である。
目次は以下の通りである。
第1章 プロテスタントとアメリカ、第2章 プロテスタント大分裂、
第3章 リベラルの時代、第4章宗教右派は何を求めているのか、
第5章 宗教右派の勃興とモラル・マジョリティー、
第6章 確立した宗教右派運動とキリスト教連合、
第7章 ブッシュ政権と宗教右派の絶頂期、
第8章 21世紀アメリカの宗教勢力地図、
第9章 宗教右派の停滞と福音派の影響力。

著者はタイトルにもあるキーワードである宗教右派を次のように説明している。
「・・・宗教右派とは、中絶反対などの過激な政治運動をする宗教指導者や団体をまとめて言うための総称だ。・・・一方で、宗教右派の主張に共鳴して、選挙の時には保守的な共和党候補を支援する人たちは宗教保守(層)と呼ぶことにする。」(p.119)

宗教右派の中心である福音派については、次の通りである。
「福音派を探し出すもう一つの方法は、南部バプチスト連盟など、伝統的に福音派とされる教派をリストアップして、そこに所属している信徒を「福音派」と定義することだ。」「・・・特に断らない限り、「福音派」とは、白人福音派のことだ。」(ともにp.175)

上の表(p.176、表の原出所については同書を参照のこと)によれば、白人福音派は少しずつではあるが増大し、全成人人口の24.6%に達している。他方、主流派プロテスタントは1944年の44.4%から2004年の18.7%に激減している。

ところで、福音派は非常に深く政治に関与しつつある。その政治との関係は、右の図(p.177)が示している。近年、福音派での共和党支持は増大している。
同様の趣旨の図は、主流派についてはp.188、カトリックについてはp.192、黒人プロテスタントについてはp.193で示されている。

では、なぜ宗教保守層が影響力を拡大したのだろうか。著者は次のような見解を紹介する。
「(ウィルコックス教授によれば)宗教保守層が膨張した理由は単純で、リベラルの行き過ぎに反発していた国民の数が多かっただけだということだ。
もう一つの分析は、宗教右派運動はポピュリズムの反乱だというものだ。」(p.200)

「そうした”声なき多数派”の反乱は、宗教に限ったものではなかった。少数派積極優遇政策によって「逆差別」を受けたと感じ、”福祉の女王”が自分たちの税金で優雅な生活をしているのではないかと疑う白人中間層には、リベラルの時代に”進歩”とされたもの全般に対して反感を抱く気持ちが広がってきた。」(p.201)

最後に、著者は「こうして、両党(共和・民主、(補足))が福音派へのアピールを競い、新たな政策を打ち出していけば、福音派の関心と政治意識の幅も広がっていくだろう。その相乗効果が、米国政治に、これまでの「保守」と「リベラル」の枠組みを超えた新たな地平を開いていくと期待することは、あまりにも楽観的か、あるいは能天気すぎるだろうか。」(p.243)
この本が出版されたのが2008年、それから10年近くたっているが、事態は新たな地平よりも逆方向に動いていることを示す、トランプ大統領の登場となっている。

しかし、著者の楽観的な見通しが適切ではなかったとは言え、アメリカの宗教右派とその主張などを詳しく取り上げたこの著書の意義は増すばかりである。宗教離れが著しい日本において、最大の同盟国アメリカで起こっている宗教の政治への積極的な参加と劇的な変化を学ぶことは、とても重要な課題となっていると思われる。

ブログのTOPブログの目次新保博彦のホームページ