2016年6月29日水曜日

『若冲原寸美術館 100%Jakuchu!』、原寸図で若冲を楽しむ

若冲原寸美術館 100%Jakuchu(小学館、2016年)が刊行された。原寸で若冲の「動植綵絵」を安価で見ることができる画集である。若冲の作品集が続々と出版されているが、他書にはない特徴となっている。
この書籍はもうひとつ、「動植綵絵」を年代別に並べていることも特徴である。この書籍では、まず各図の全体と解説を付け、その後に特色のある原寸の部分図がいくつか掲げられている。
ここでは、興味深い5つの原寸の部分図を紹介してみたい。

まず、最も早い時期の作品である「雪中鴛鴦図」(1759年)を見てみよう。「鴛」は雄の、「鴦」は雌のおしどりである。左はその図の中央右側の図で、雄のおしどりを原寸で切り取った図である。一方、雌は身体の半分を水中に沈めている。ちなみに、ここまで図に近づくと、絹地に描かれていることがよくわかる。

「何より印象的なのは、裏彩色を効果的に活用した雪の表現。枝や地面に降り積もった雪は、部分的に胡粉の裏彩色を施し、表面からの胡粉の彩色箇所と微妙な白の明度差を出して見事なまでの表情を演出。」(23、以下ページ数)


次に、「蓮池遊魚図」(1761-65年頃)である。時代は少し下がって17番目の作品である。右の図は、最も鮮やかな左下の蓮のみを切り取った原寸の部分図である。

多くの専門家が指摘されているように、若冲の作品には仏教、禅の精神がその背景にある。作品のすべてからそのことがうかがえるが、この図は蓮を選んでいるという点で、その特色を直接的に表現していると言えるだろう。

「鮎の群れとオイカワが描かれていることから、ここは川中と想像される。しかしながら蓮は本来、流れのない池などに生息する植物であり、さらに蓮の花がまるで水中に咲いているかのよ
うに見えるところなど、なんとも不思議な空間構成の作品と言
えよう。」(107)

これ以外でも若冲の図の多くは、このように現実にはあり得ない構図を採用している。やはり以下の3つの作品を含む後期の作品に属する「菊花流水図」(1765-66年頃)は、最もその特徴がよく出ていると思われる。

明和2(1765)年の9月、若沖は末弟の死をきっかけにまずは24幅を相国寺に寄進したが、その後も制作を続けて全30幅を完成させることとなる。以下は、残りの1-2年で完成した6幅のうちの作品である。

まずは動植綵絵で最も代表的な作品である、「老松白鳳図」(1765-66年頃)。左はほぼ中央に位置する鳳凰の頭部の原寸図である。

「ドレスのようともレースのような美しさとも評される鳳凰の白羽の描写は、そのほとんどの部分に胡粉と黄土、あるいはその重なりによる裏彩色が施され、表面に胡粉によって描かれた羽毛の線は、これまでの作例よりも繊細で柔和な印象がある。」(155)

原寸で見る鳳凰の白い羽根のひとつひとつが実に繊細で美しい。そして羽根から透けて見える金色は、金泥ではなく黄土によって描かれていると言う。若冲は金色の特色をよく理解し、金泥ではなくあえて黄土を使ったとみられる。さらに、肌裏紙の墨色も金色に見せる効果をもたらしている。
ところで、この書籍によると、「老松孔雀図」(1757-60年頃)では、金泥を例外的に用いていると言う。


次に、「群魚図」(1765-66年頃)である。図の左下のルリハタの原寸図が右の図である。

「ルリハタの青色からは、18世紀初めにドイツで発明された人工顔料・プルシアンプルーが検出され、これが現在知られる日本で最初の使用例となった。」(173)
「動植綵絵」では、様々な青色が使われているが、プルシアンブルーはここでしか使われていないという。とても深く濃い青色である。
この高価な顔料が使われたことは、若冲が海外からのものを含めあらゆる画材の情報を得、それを購入できる財力があったことを示している。


最後に、「紅葉小禽図」(1765-66年頃)である。全体で紅葉を描いている右上の部分の原寸図が左の図である。

「その光を受けて紅葉したカエデの葉が輝いて見える。570枚もあるカエデの葉を表裏の彩色によって微妙に描き分け、その9割近くに裏彩色を施す。」(185)

全体図でも見えるカエデの一枚一枚の微妙な違いが、この原寸図では一段と鮮明に見える。左の原寸図には含まれていないが、枯れる寸前ではないかと思われるやや黒ずんだ葉もある。
最終期に描かれたこの図では、若冲の裏彩色の技法がここに極まっていると言える。

この書籍の巻末に太田彩さんの簡明にまとめられた解説が付いているので紹介したい。
まず若冲の創作の意図について、「自身を含めた様々な生き物総ての生命は尊いという仏の教えに深く共感し、その想いを根幹として描いた《動植綵絵》は、若沖がイメージした仏の世界観を荘厳するものであったのである。」

そして、創作の特徴は以下の通りである。
「肌裏紙の墨色、その上に裏彩色、さらに織物の絵絹、そして表面の顔料と染料系の絵具による表現。これらが融合して表出された《動植綵絵》は、日本画の、絹絵の特質を熟知し、材料や技法を最大限に生かして、優れた表現力を発揮した、日本美術の代表作の一つであることに間違いはない。」

ここでは5箇所しか紹介できなかったが、ぜひとも本書を手にとっていただき、若冲による生きとし生けるものの見事な原寸での表現を見ていただきたいと思う。

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